門出 -1-
ゆっくりとまぶたを押し上げる。
見慣れた天井が目に映る。
いつもと変わらない景色、同じ朝。
しかし、今日からの俺は、昨日までとは違う。
ここから俺の新しい人生が始まるんだ。
俺は冒険者として生きることを決めた。
そう、今日はその冒険者としての記念すべき一日目。
いまかいまかと出番を待っている装備達をゆっくりと身につけていく。
着てるかどうか分からない程度の皮の胴着。
一握りのポーション。
手には、今にも壊れてしまいそうなダガーが一振り。
なんとも心許ない。
しかし、いまこれが俺の命を守る全てだ。
あとは俺次第。
生きるか死ぬかは、この腕にかかっている。
さぁ支度は済んだ。
あとはただ外へ飛び出せばいい。
と、扉に手を伸ばしかけて、腕が振るえている事に気付く。
そんな自分に苦笑をして、ゆっくり大きく一つ息をつき、改めて扉に手をかける。
「お、きたね。」
「おはよう、兄さん。」
「兄貴、たったそれだけの支度なのに何手間取ってるの?」
「桧。せめて今日だけは祝ってやりなさい。」
「棒(ぼう)の言うとおりだよ、桧。冒険者ってのは、もしかしたらいつ死ぬかも知れないんだからね。」
「そういう割に榛(しん)姉、いつもぴんぴんで帰ってきてるよ?」
「んー、まぁ。これでも最初の頃は、ほんとに必死だったんだよ。今だってちょっと上の狩り場に行った日には、命からがらだったりするんだから。」
「とか言いながら榛(しん)姉、やっぱり楽しそうに帰ってきてるじゃない。榛(しん)姉見てると、私も冒険に行きたくなるなぁ。」
「本当に行きたくなった時は行ってみなさい。応援するからね。」
「ほんとっ!?榛(しん)姉っ!!」
「もちろんだよ。」
「やっぱりあたしね、ディバイン武器を装備したいなー!」
「うんうん、やっぱりディバは憧れだよね。」
「・・・・・・どうでも良いけど桧と姉さん。兄さんすっかりおなざりになってるけど?」
「「あ・・・・・・。」」
まったくこの人達は・・・。
人が緊張してるのが莫迦らしく思えるじゃないか。
-2-
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